帰りたくない
仕事の愚痴を聞いて欲しくて、後輩のニエルを家にあがる。
ニエルはいつも「いいよ」と爽やかに返事をして、私の一方的な愚痴を、受け止めてくれる。
アルコールの力もあって、どんどんヒートアップする私。
『…それでさぁ〜……でね、……なのぉ!』
完全に酔いが回り、口から次々と溢れる不満。
『もぉ〜、ふざけるなって感じ〜…』
「先輩、ちょっと飲み過ぎ…」
ニエルがグラスを取り上げた。
『返してよぉー!』
「これ以上飲んだら明日に響くよ」
『いいのー明日休みなんだからぁ』
グラスを取り返そうと手を伸ばすけど、立ち上がってグラスを高く上げるから到底届くはずがない。
『ニエルのけちぃー』
それでもなんとかしようともがいていたら、足元がふらついて
『きゃっ』
「えっ、ぅわっ」
前方へ倒れてしまい、思いっきりニエルに体重をかけたせいでニエルもバランスを崩して二人で転倒…
『いたい〜ニエルのばかぁ〜』
…悪いのは私なのに。
私の下敷きになったにも関わらずニエルは、
「もう…怪我ない?ほら、送るからもう帰ろ?」
どこまでも優しかった。
そんなニエルの優しさに甘えたくて、
『やだ、帰りたくない…』
気付いたらそんなことを言ってしまっていた。
「はあ、お酒の力借りて、そんなこと軽い気持ちで言っちゃだめだよ。僕だって男なんだよ?どんな気持ちで先輩を家に上げてるか…」
『わかってるよ』
確かにお酒の力なのかもしれない。
でも、だからこそ正直な気持ちが口から漏れた。
『ニエルが好きなの』
「…もう取り消しても遅いよ?」
『取り消さない。ニエルが好き』
「今日はもう、帰さないから」