倍返し?
※ 貴方は女優さんです。
今日は少し撮影が長引いてしまった。
とりあえずこの窮屈なパンプスを脱ぎたくて自宅へ急ぐ。
マンションが近付くと自身の部屋に明かりが点いているのが見えた。
部屋のロックを解除しドアを開けると、小さな私の靴たちのそばにいつもはない靴が一つ。
やっぱり。
「おかえり、ヌナ」
『ただいまニエル』
彼氏のニエルはソファで読んでいた雑誌をテーブルに置いてこっちを見た。
『せっかくきてくれたのに遅くなっちゃったね、』
「ううん、僕が勝手に来ただけたし」
着ていたコートを脱いでニエルの隣に腰を下ろした。
「コーヒーいれるね」
ニエルは立ち上がりキッチンへ向かう。
「僕たまたま見ちゃったんだけどさ、」
『うん、何を?』
「あのドラマって、あんなにキスシーン多かったの?」
視線はカップに向けたまま問われた。
今撮ってるドラマはラブストーリーで、最近はクライマックスに向けて2人の恋愛模様を表現するシーンが増えてきた。
「しかも相手の俳優さ、絶対わざとNG出してるでしょ?」
ニエルが話しているのがこの間公開されたメイキングだって事がすぐにわかった。
お互い緊張して恥ずかしくてキスしたあとすぐに笑っちゃったりとか、キスしたあとのセリフを噛んだりとか……確かそんな映像。
コトンとテーブルにカップを置いてニエルの手が頬に伸びてきた。
ニエルは私の顔を自分の方に向けると同時に唇にしゃぶりついた。
『ふっ、んっ』
唇が全てニエルの唇に包まれて、熱い舌が口内に入ってくる。
『んん、っ』
隙間がほとんどなくて苦しくなってニエルの肩を押す。
気付いてくれたのか、ちゅっと音をたてて唇が離れた。
『ん、はあ…』
荒い呼吸で必死に酸素を取り込んだ。
「………仕事だからしょうがないのにね……」
困ったような顔で微笑んだ。
『ごめんねニエル…』
さっきの強引さはすっかりなくなって、今度は優しく肩を抱かれた。
「あーほんとは誰にも触れて欲しくないのに…」
拗ねた子どもみたいな口調で呟いた。
そんなニエルの背中に腕を回して、ぎゅっと力を込めた。
『わかってるでしょ?ドラマでするキスなんて私自身には何の気持ちもないってこと』
「うん、わかるけど…」
『キスしてドキドキするのも、触れたいと思うのもニエルだけなんだよ?』
ニエルの前髪を少しかき分けて目を見つめ、ゆっくり唇を近付けた。
「ん、ヌナ」
角度を何度も変えてニエルの唇を味わう。
ニエルも後頭部に手を添えて来てキスに応えてくれた。
唇から全身に熱が伝わる。
『はぁ、』
ニエルの濡れた唇は艷やかでとても綺麗。
「ヌナ、その顔えろい…」
まもなく再び深い口付け。
当たり前だけど、ドラマでするキスとは全然別物で、気持ちがいい。
『これからさ、仕事でキスしたらその何倍もニエルにキスするね』
「キス以上のことしたら?」
『っ……何倍も、するよ?』
「わ、楽しみだなぁ(笑)、ねえヌナ痕つけたい」
『それはだめ!まだ撮影あるし!』
首筋に噛み付こうとしたニエルを必死で離した。
「ちぇ、でもほら、まだ全部キス終わってないよ?」
『え?』
「何倍もしてくれるんでしょ?」
ニエルとのキスはしばらく続いた。